この木なんの木、気になる木【千返万歌〈第8回 〉】

千返万歌
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 上原・若洲が返歌に挑戦! 一方の頭にふと浮かんだ短歌から、返歌の世界が始まります。そしてさらに、2首の世界から思い浮かんだ物語などをノールールで綴る企画です。第8回は上原発・若洲着。文章は若洲の担当です。

千返万歌

浦安に大きな遊園地ができてブラシの花がぶら下がりまくる
                      上原温泉

ゴムの木にゴムゴムの実が生るとかや自転車二台並んで走る
                       若洲至

*メモ✍
 「|浦安《うらやす》」:千葉県浦安市、日本で最も有名なテーマパークがある
 「ブラシの花」:ブラシノキと呼ばれる木に咲く花を指したものと思われる(下の写真参照)

ブラシノキの花(イメージ)

 「ゴムの木」:天然ゴムの原料となる樹液を産出する木の仲間
 「ゴムゴムの実」:漫画『ワンピース』で、主人公のルフィが食べた実、これを食べたことによって身体がゴムのように伸びる「能力」がついた
 「~とかや」:文語体で、「~とかいう/~ことらしい」、伝聞などの不確定な事項であることを示す

文章編:この木なんの木、気になる木

 千返万歌はほぼ毎週出している企画なのですが、最近文章の長大化が進んでまして。最初は2000字くらいだったのが、第7回では全体で4500字超。実に2倍以上に膨れ上がってしまったんです💦

 どの回も書きたいことがあって書いているので、長くなることそれ自体はまあ良いんですが、書く側としてはどんどんハードルが上がってくるんです😓

 恥ずかしながら、毎回新しいことを試すほど、新しいことが浮かぶ訳でもない。もっと言えば、広がりのある歌が題材だったら書けなくもないのでしょうけど、毎回それを作るのも、できているかというと正直自信がない。

 というわけで、気楽に鑑賞していこうかなと思います。ちょうどよく今回は割と気楽な歌でもありますしね🙌

「なんとかの木」のいろいろ

 上の歌には、へんてこな植物の名前がそれぞれ入ってますね。本歌の方は「ブラシの花」、返歌は「ゴムの木」。メモ✍を読むと、どちらも実在する植物であることがわかります。

 ブラシの花はブラシノキという木の花ですが、本当に排水溝や水筒の掃除に使うブラシのような形をしています。棘に見えるのは雄しべ(雄蘂)の一部だそうです。花びらではないんですね。せっかくですので、再度写真をご覧くださいませ。こちらは名前の由来が花の形状です。

ブラシノキ(イメージ)

 対してゴムの木の方は、(日本語では)名前の由来=用途です。天然ゴムは、この木の樹液を煮詰めて作ります。ヨーロッパで自転車や自動車や生産され始めたころ、天然ゴムから作るゴムタイヤも発明され、列強が熱帯地方を領有しようとする動機の1つになりました。ところで、ゴムの木には「ゴムゴムの実」はなりません。もちろん。

 ちょっと話は逸れまして、「なんとかの木」は他にもあります。例えば「ハンカチノ|キ《木》」。夏の季語です。白いひらひらとしたものを花期につけるのが、あたかもハンカチのように見えるからだそうです。一方「幽霊の木」とも言うらしい。

ハンカチノキ(イメージ)

 あとは「なんじゃもんじゃの木」。これは俳句界で一般に、ヒトツバタゴという木の別名ということになっています。今でも絶滅危惧種ですし、あまり見かけない珍しい樹木であるからの異名でしょうか。

ヒトツバタゴの花(イメージ)

 どれも木の名前としては日常に馴染みがないかもしれませんが、ブラシ・ゴム・ハンカチは日用しているので、ちょっとウソみたいな名前に思えますよね。で、このネーミングで遊んだのが今回の2首です。

ウソみたいでウソじゃない浦安

 本歌の方は何と言っても「浦安」という地名の勝利でしょう。2023年は40周年イベント絶賛開催中の某テーマパークがある都市です。そこの魅力といえば、圧倒的な非日常感。時計が少ないとか、外の景色が目に入らないとか、徹底した設計の工夫で「虚構」の世界を実体験させてくれます(こういうことは言ってはいけない?)。

浦安(典型的イメージ)

 この歌の舞台はそのパーク内ではないと推測できますが、「ブラシの花」のネーミングや形状の違和感を面白さとして楽しめるのは、そんな大きな虚の世界がある浦安だからこそのように思えます(浦安全体がそういう世界だ、というわけではもちろんありませんので誤解のなきよう、念のため)。

 だから、この歌の中身は、ウソっぽいけどウソはない。

サラッとウソをつく自転車

 片や返歌の方は、真っ赤なウソをサラッとついてます。「ブラシの花がブラシの木に咲くなら、ゴムの木にはゴムゴムの実がなるんだろうね~」なんて。この詠み口から考えるに、下の句に詠み込まれた2台の自転車は、恐らく作者自身を含まない第三者の姿で、上の句は彼らのセリフのつもりでしょう。が、その自転車に対して、作者がどういう視点を持っているかは、読者の皆さんの読みに委ねるべき点だと思っています。

 「なーんだ、そんなアホなことがあるかい」と突き放して見下げる鑑賞の仕方が思いつく方もいるでしょう。まあそれでも良いんですが、わざわざ自転車2台が並んで走っていることを言っているので、ここは例えば恋愛関係の若い2人の日常会話? みたいに鑑賞すると、微笑ましく見守っている姿にも見えてくるかもしれませんね。とは言いつつまあ、お好きな方でご自由にご理解ください。

 この返歌は、本歌で「浦安」+「ブラシの花」という虚のイメージが提示されたからこそ、その世界の中で楽しい読みができるというものです。もし仮に本歌がなかったら、下の句を贅沢に使って2人の関係性を提示することはできなかったかも、と思います。

まとめ

 歌をこのように鑑賞するのは初めての試みでしたが、いかがだったでしょうか。結論、本歌の地名の提示とモノの提示がピッタリ来ていて、それに乗っかりながら返歌も鑑賞できました。本当は恋愛の短編小説でも書いてみようかと思ったのですが、そんな腕はなく……。あえなくこのような形で落ち着きました。なんだかんだでこの記事も2500字をゆうに越えてしまいましたが、お楽しみいただけていたら幸いです。

メモ:歌の反省点

 さて、いつもこの企画では歌の良し悪しには一切触れないのですが、今回はゆるく文章を書き進めてしまったので、最後にピリッと、今後の宿題として、少しばかり反省点を書いておこうかと思います。

本歌のmore

 「ぶら下がりまくる」は、滑稽味をちょっと強調し過ぎかもしれないですね。ブラシの「ブラ」と、ぶら下がりの「ぶら」の韻の感じはとてもおもしろいですが、「まくる」まで付けてよかったかどうか。

返歌のmore

 「とかや」のような文語体・古語的表現を使ったことにどれだけ意味があるか。歌の意味内容がまさに現代的であるにも関わらず、表現とギャップがあることで、情景の喚起を邪魔していないか。

参考文献(リンク)

https://realsound.jp/book/2021/07/post-804772.html

https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-928

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