2023年３月25日21時、上原と若洲の二人は、それぞれ自宅からオンライン会議システムZoomに参加した。紆余曲折あって、6時間ほど話し込んだ。これをゑひ［酔］のスタートということにしている。この「酔人問答」シリーズはその記録であり、今回はその２回目である。
話し手
ゑひのメンバーは次の通りです。上の名前だけでもぜひ覚えてください。たまたまですが、どちらも東京23区内にある地名であることは共通しています。
上原温泉（うえはら・ゆみ）
情報リテラシー低。東日本大震災のときTwitterが役立つと聞いてアカウントは作ったが即休眠。フォローしたのは鉄道会社とか官邸とか。周囲からFacebookやれと言われては受け流し、Instagramで何が起こっているかも知らずに楽しく暮らす日々。俳句を始めるまでは美術館巡りや映画館通いに熱心だった。描いたり撮ったりはせず鑑賞一辺倒。ゑひを立ち上げたことにより慣れない発信を始めようとしている。
若洲至（わかす・いたり）
初めてカメラを手にしたのは12歳の頃で、鉄道写真や標識などをたくさん撮った記憶がある。他の人と行動しているときより、一人で行動しているときに多く写真を撮る。人に見せたいという願望があまりなく、さらにSNSに苦手意識があるので、友人に勧められても、TwitterもInstagramも頑なに始めていない。ゑひ［酔］のために作ったTwitterアカウントも、動かす前に凍結になって冷や汗をかいている。
写真撮りますか？
上原 私も結構ですけど、若洲さんもよく旅をされてますよね。
若洲 一人旅は少ないですが、回数で見ると同世代の中だと多いかもしれないですね。今年に入ってからも、１月に神戸、２月に台湾、３月上旬にはイタリアとギリシャに行っていました。普段は友人に誘われて国内旅行が多いですけど、コロナの不安や不便もだいぶなくなってきたので、今年の春から海外も行くようになりました。
上原 海外に行って何をするとか、そういうのはあるんですか？
若洲 もともと海外経験が多いわけではないので、まずは有名どころから行きます。台湾なら夜市や台北101に行きましたし、ヨーロッパでも、コロッセオやピサの斜塔、パルテノン神殿のようなメジャーなところを巡りました。その他にちょっと変わったところでいうと、台湾で総統府（日本の首相官邸に当たる）や、アテネで現代美術館に行ったりしましたけど、もしかすると異色かもしれない。展示されているものとかから、現地の人が何を考えているのか、どんな問題意識を持っているのかがわかる気がするので面白いです。
上原 写真とか撮ります？
若洲 普段よりはたくさん撮りましたよ。あとは、いろいろ必要になるかなあと思って、自分の写真も撮ってもらいました。例えばこんなところで。
華山1914文化創意園區（台湾・台北市中正區）内にて撮影（若洲）
ここは日本統治時代に日本資本で建設された工場の跡地であり、建物や敷地の雰囲気を残したまま、現在は展示スペースやクラフトの店舗が集まるアート空間となっている。
写真はその工場の壁だが、赤や緑の蔦がはっている。奥には台北市内の高層ビルが見える。
＊２人が実際に見ているのは若洲の写っている写真。
上原 素敵な場所ですね～！
若洲 なかなか良いですよね。目掛けて行ったわけではなかったのですが、偶然良いところがあったので、こんな感じの画角でとか、ここまで写るようにとか、いろいろとお願いして撮ってもらいました。写っている本人のスタイリングが足りなかったのが反省点ですが（汗）。
上原 画角とかは若洲さんの想像通りになっているということなんですね。排水溝の蓋のちょっと苔むしている感じとか、ディテールも素敵です。左に向かってすぼまっていく線の印象が強い。写真もやってみたらいいじゃないですか。
若洲 高校生くらいの頃から写真を勉強してみたいと思っていて、今もできるならカメラの学校に通いたんですよ。短期の講習とかでもいいので。でもカメラ本体もそうですし、撮りたいものを撮るためには衣装合わせをしたり、小道具を用意したりしないといけないイメージがあって、なかなか始められないですね。もっぱら出掛けたときに、ここいいなぁと思ったところで写真を撮ってもらったり、物だけ撮ったりというので我慢しています。
最近出掛けて外で写真を撮るときに結構プラスになっているなと思うのは、地理にある程度理解があるので、場所の歴史を知っていることが多いことですかね。その場所の持っている物語性を織り込むことができているといいなと思いながら撮っています。場所とか、そこにあるものが意味を持って作品に重層性を与えるところは、結構俳句と似ていると思うんですよね。
上原 学生時代までの自分の写真は、ほぼ例外なくピースしてますね。あまりにも芸術性が無さ過ぎる(笑)。それから被写体としてのシルエットに自信が無いです(笑)。だからゑひ［酔］でもし顔出しすることになった時は、若洲さんの印象強めでお願いします！
若洲 私も撮られるのは好きじゃないんですが……。撮られるなら今度はちゃんとスタイリングもしたいですね。いずれにしてもしばらくは顔出ししないでおきましょう（苦笑）。
若洲の写真の「線」
若洲 撮った写真を人に見せるということも稀なのですが、せっかくなのでいくつかご覧いただけますか？
上原 もちろんです。
上原 線ですね～（笑）。さっきもそうでしたが、この写真も線の印象強めですね～（笑）
若洲 線、ですか（驚）。そのような感想をいただくとは思ってませんでした（笑）。左の写真はドライブに行った時、うっすら雪の積もった山の中腹まで走って、これ以上は止めとこうと思って車を転回した時のタイヤの跡が綺麗だったので撮ったものです。花みたいですよね～。
上原 車を降りて友達に待ってもらって、わざわざこれを撮ったってことですね？
若洲 景色とかは人より撮らない方なので、変だなあと思われたでしょうね（苦笑）。中央は深夜に散歩していて、地下道を下っていくときに撮ったものなんですが、明るいのに不安な感じがする、ちょっと不思議な風景だと思いまして。
上原 下に向かって撮ったものということではありますが、シルエットはトロフィーみたい。
若洲 言われてみれば確かにそうも見えますね。そして右は千葉の勝浦の景色で、線路といろいろな電線と、雲と水平線とが写っていますね。
上原 どちらもやっぱり線ですね。画角を区切る線が必ずある。私の好きなアラーキー（荒木経惟）とかの写真とはぜんぜん違う。
若洲 あんまり思っていなかったですが、画面の構図を意識しているのかもしれませんね。いろいろ見ましたが、曲線やばらばらともののある画面の写真はほとんどなかったです（汗）。これは由々しい問題かもしれない。
上原 最初に写真もやってみてはどうですと言った時、いきなり「衣装が～」とか「小道具が～」とか言い出したので驚いたんですが、雑多なものを撮ってこなかった若洲さんにとっては、画面は「調整された世界」のイメージだということで、なんとなくわかりました。
若洲 バリエーションがないのは写真家としてはダメですよね（苦笑）。
上原 おっ大上段に出ましたね（笑）。その意気なら、写真もゑひ［酔］で発表しましょう。
若洲 いい場所といいものが揃ったらありかもですが、あんまり期待しないでください（苦笑）。
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